Vilhelm Lauritzen

ヴィルヘルム・ラウリッツェンは、デンマーク建築史において最も重要な人物のひとりです。彼は、「美的感覚なしに人生は成り立たない」と信じており、その理念は彼が手がけた建築や照明に明確に表れています。また、建築は一部の人々のための贅沢ではなく、すべての人に開かれた“応用美術”であるべきだと考えていました。

“There is no life without aesthetics”

「美学なくして人生はない」 ー  ヴィルヘルム・ラウリッツェン

デンマーク・モダニズムの先駆者

A Pioneer of Danish Modernism

デンマークにおける機能主義建築の先駆者として、ラウリッツェンは数々の著名な建築を手がけました。代表作には、ノーレブロ劇場(Nørrebro Teater/1931–32)、デパート「デールス・ヴァーレフス」(Daells Varehus/1928–35)、国営放送局本社「ラジオハウス(Radiohuset/1936–41)」、そしてコペンハーゲン郊外カストラップに建設された空港初の旅客ターミナル(1937–39)などがあります。 このほかにも、彼は生涯を通じて多くの重要な建築を残しました。

ルイスポールセンとの協働

A Collaboration with Louis Poulsen

ラウリッツェンは、建築における光の役割に深い関心を抱いていました。そのため、照明のデザインにも積極的に関与し、プロジェクトごとにルイスポールセンと密接に連携して製品を開発しました。建築空間に自然な光を取り込むことを追求した彼の姿勢は、ルイスポールセンの光に対する哲学と通じ合うものでした。

代表的な照明デザインには、「VL38」「VL45」「VL リングクラウン」などがあり、いずれも当初は特定のプロジェクトのためにデザインされましたが、今日では時代を超えて愛される照明として世界中で使用されています。

光で空間をかたちづくる

Enhancing spaces with light

ヴィルヘルム・ラウリッツェンは、自然光と人工光の両方を深く理解していました。建築においては、窓の配置を緻密に計画することで、光と影を巧みに操り、利用者にとって心地よい空間体験を生み出しました。

照明デザインにおいても同じ姿勢で取り組み、直接光と柔らかな光を組み合わせることで、影に輪郭を与えながら拡散光で空間全体をやわらかく包み込む表現を実現しています。

とりわけ「ラジオハウス(Radiohuset)」においては、光によって生まれる心地よさを体現した代表例です。ラウリッツェンはこの建物の設計を手がけただけでなく、そこで使用される照明器具のデザインも担当しました。これらの器具は1940年代半ばにルイスポールセンのカタログに掲載され、現在もなお製品ラインナップに加えられています。

A Nature-Loving Architect

自然を愛した建築家

ヴィルヘルム・ラウリッツェンは、自然から深いインスピレーションを得た建築家でした。心から安らぎを感じられるのは自然の中だと語り、蝶の標本を収集することに没頭。やがてその膨大なコレクションは、コペンハーゲン大学動物学博物館に寄贈されました。「建築家になっていなければ、動物学者になっていただろう」と本人が語ったように、自然界への観察眼と敬意は、彼のデザインにも色濃く反映されています。